JR中央線 三鷹 (武蔵野市、吉祥寺) 所属税理士の日記

JR中央線、三鷹にある税理士事務所、宮内会計事務所に勤める所属税理士です。 税法や会計など、特に重要な話を抜粋したミラーブログです。

中小企業の事業承継について(7)      ~事業承継税制を利用した自社株式の移行 ③~

日本の経済を根底で支えているのは、大手上場企業ではなく中小企業であるとしばしば言われます。
そんな中小企業の経営者の多くが高齢化を迎えている中、会社の存続がどうなるのかというのは、非常に大きな課題となっています。


株式非公開の同族会社である中小法人(株式会社)の事業承継においては、自社株式の引き継ぎが、大きな課題です。

 

今回は、事業承継税制の第3回として、非上場株式等の贈与について、贈与税の納税猶予の適用を受けていた後継者が、引き続き相続税についても納税猶予の適用を受け続けたい場合の要件等、そして事業承継税制のメリットとデメリットをご説明します。

 

<1>都道府県知事の確認と税務署への提出と担保の提供

相続税について事業承継税制を適用し納税猶予を受けようという場合にも、贈与税の時と同様に、都道府県知事から、会社、後継者、先代経営者がそれぞれの要件を満たしていることについて、経営承継円滑化法の認定を受けなければなりません。
この認定は相続税の申告期限、すなわち、相続が開始したことを知った日(先代経営者が亡くなった日)の翌日から10月以内に受ける必要があります。
認定を得られなかった場合には事業承継税制の適用を受けることができないのも、贈与税の時と同様です。

 

また、贈与税に引き続き相続税についても納税猶予を受ける為に、納税地の所轄税務署に提出する相続税の申告書には「非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除」の適用を受ける旨を記載し、一定の書類を添付しなければなりません。

これも贈与税の納税猶予と同じなのですが、この時に、納税が猶予される相続税額及び利息である利子税の額に見合う担保を提供する必要があります。
贈与税相続税とでは税額が異なることになりますので、提供すべき担保の額は同額ではありません。


相続税の納税猶予を受ける非上場株式の全てを担保として提供した場合には、贈与税の時と同様に、納税が猶予される相続税額及び利子税の額に見合う担保の提供があったものとみなされます。

なお、贈与税の納税猶予から相続税の納税猶予を継続する為の主だった要件は、次のようなものになります。

 

① 上場会社、風俗営業会社、資産管理会社に該当しないこと
② 後継者である相続人等が、その相続開始の時において次の要件を満たしていること
 ・会社の代表権を有していること
 ・後継者及び後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有
  していること
 ・後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く)の中で最も多くの議決権を保
  有していること。

 

贈与税の納税猶予を受けている時点で、これ等の要件は満たしていることでしょう。

しかし、相続が発生するまでに状況に変化が生じて、これ等のいずれかを満たさないこととなっている場合には、相続税の納税猶予は受けることができず、申告書の提出期限までに納付をしなければいけません。

 

<2>相続税の納税猶予期間と相続税の免除

事業承継税制を利用した相続税の納税猶予も贈与税の時と同じく、一定の要件を満たし続けなければ、その猶予の全部または一部が取り消されることになります。

 

ただし、当初5年の特例承継期間は、事業承継税制による贈与税の納税猶予をそのまま相続税に引き継いだ場合には一定の場合を除き存在しません。

もちろん、相続の開始を受けて新たに事業承継税制を利用し始める時は話が別で、その場合には当初の5年間は納税猶予の維持に対して求められる要件が多くなっています。

 

贈与税から継続している場合には、条件の厳しい制度利用開始当初の期間は既に経過しているので、改めて特例経営承継期間を設けることはしないということだと考えていただければいいでしょう。

 

事業承継税制の適用により納税が猶予されていた相続税が免除される主な理由は、概ね以下のようなものになります。

 

① 後継者が死亡した場合
② 経営承継期間の経過後において、会社について破産手続き開始の決定等があった場合
③ 後継者が次の後継者に納税猶予の適用を受ける贈与をした場合

 

このような時には、「免除届出書」・「免除申請書」を提出することで、その事由が発生された時点まで納税が猶予されていた相続税の全額または一部の額について、納付が免除されます。


こうして、非上場の同族会社の経営権と株式を先代から引き継いだ後継者は、本来であれば国に納付しなければならなかった贈与税又は相続税を、事業承継税制を活用することによって、最終的には免除されることになるのです。

 

<3>事業承継税制を利用するメリットとデメリット

以上、事業承継税制を利用する流れを2回に渡って簡単に説明してきました。
これだけでも面倒くさそうだなと思われたかもしれません。
ですが、これはあくまで概略、実際に事業承継税制を利用する際には、さらに細かいところまで検討し、意思を決めていかなければなりません。

 

事業承継税制の「特例措置」を利用する為には認定経営革新等支援機関(税理士や商工会、商工会議所等)の指導及び助言を受ける必要があります。
ですので、事業承継税制を利用するか否かの検討は、それ等の専門家との相談の中で行うことになるでしょう。

 

以下、事業承継税制を利用することで生じるメリットとデメリットの代表的なものを、簡単に説明しておきます。

 

<事業承継税制利用のメリット>
 ① 納付額が多額になりがちな贈与税相続税を、最終的には納付しなくてもよくなる
 ② 納税資金や株式の購入資金を用意する必要が無い
 ③ 自社株式の評価額を圧縮するための株価対策を考えなくてもよい

 

このうち、特に①は、非常に大きなメリットです。
事業承継税制の適用を検討する事業者のほとんどが、これを目的としていることは疑いの無いところだと思われます。
②や③はそれに付随して発生してくるものですので、①が事業承継税制の最大にして唯一のメリットであると言う専門家もいるくらいです。

 

<事業承継税制のデメリット>

 ① 猶予期間が長期間に及び、その間は常に納税猶予の取消リスクが存在し続けている
 ② 納税猶予が取消された場合、猶予されていた税額に加えて利息である利子税も納付
  しなければいけない

 ③ 煩雑な手続きを必要とする複雑な制度である

 

③は専門家の力を頼ることでカバーできるでしょう。
その分、それなりの額の手数料等の支払は発生します。
しかし、専門家ではない後継者等が自分自身の力で全ての書類等を用意し、適切な手続きを期限内に遅滞なく行っていくことは、甚だ困難なことです。
ですので、これは必要経費として認識していただかなければなりません。

 

事業承継税制を利用するに当たって最大のデメリットは、①と、それに付随して発生する②です。

 

事業承継税制は、本来ならば納税しなければならなかった税金を場合によっては最終的に免除しようという特例です。
その利用にあたっては厳しい要件があって当然であり、それが満たされない者にまで、特典を与え続ける理由は存在しないだろうと考えれば、これくらいのデメリットは、むしろあるのが当たり前だと思っていただけるのではないでしょうか。

 

なお、贈与税に関する納税猶予の取消リスクへの備えとして、相続時精算課税制度の併用を行うことも選択肢の1つとして存在しています。
同制度については既に第4回で紹介しているので、ここで改めて説明はしませんが、つまり、取消を受けてしまった時に納付しなければならなくなる贈与税額を、相続時精算課税制度を利用することで圧縮しようというのです。

 

課税対象となる自社株式の評価額が高ければ高いほど、累進課税を採用している贈与税の税率が上がります。
その税率が最大で55%にもなるのに対し、相続時精算課税制度だと一律20%であること、相続時精算課税制度は特別控除額が2,500万円あること等を利用するのです。
しかしながら、相続時精算課税制度の適用を受けるということは最終的に相続財産として相続税の課税対象になることも意味するので、その点は留意しておかなければなりません。

 

とはいえ、相続時精算課税制度の利用は、万が一に備えておくという意味では、検討しておくべき対策だと言えるでしょう。
もちろん、納税猶予が取消されないのが一番望ましいのですが。

 

<4>まとめ

事業承継に係る自社株式の後継者への無償での引継ぎに伴って贈与税相続税の納税が発生することへの対応策として、事業承継税制を利用するというのは、オーソドックスな選択肢の1つです。

 

事業承継税制とは、自社の株式を後継者が贈与又は相続により取得することとなった時に、その株式の異動に対して課せられる贈与税相続税の納付を猶予する制度です。
一定の要件を満せば最終的に納税が免除となりますが、あくまで基本は贈与税相続税の納税を猶予する、延期するという規定です。
そこはお間違えの無いようにお願いいたします。

 

中小企業の事業承継を支援し経営が継続することで、地域経済の活性化と雇用の維持を図ることを目的とした事業承継税制は、内容的に使い勝手が悪かったこともあって当初は国の狙い程には利用者が増えませんでした。
しかし、その後の改正で使い勝手は改善され、期限の定めはありますが、「特例措置」も導入されたことで、利用を検討するに値する制度になってきています。

 

事業承継税制を利用するには、会社、先代経営者、後継者のそれぞれが複数の要件を満たしている必要があります。
また、事前に都道府県知事に提出しなければならない書類がある等、手続きは複雑で、煩雑な事務処理が必要になります。
さらに、事業承継税制の規定する贈与税相続税の納税猶予の適用を受けるには、贈与時又は相続時の届出等以外にも、納税猶予を受け続ける間ずっと、一定の要件を満たし続ける必要がありますし、定期的に書類を提出しなければなりません。

 

仮に要件を満たさなくなった時や、提出すべき書類を提出期限までに提出できなかった・しなかった時には、納税猶予は取消されます。
その場合は、本来納付すべきであった贈与税又は相続税に加え、利息である利子税も併せて納付しなければならなくなります。

 

贈与税相続税の納付が猶予され、場合によっては最終的に免除されることが事業承継税制を利用する最大のメリットです。
一方で、納税猶予が取消された時には猶予されていた税額のみならず利子税までも納めなければならなくなるということが最大のデメリットです。


事業承継税制の適用を受ける際には、そのプラス面とマイナス面をしっかりと理解し比較検討したうえで、利用するようにしましょう。