土地の評価について(1) ~評価の種類と土地の分類~
将来における相続・贈与等の発生を考えた場合、皆さんが一番気になるのは、その相続の被相続人(亡くなった方のことです)の所有している財産や、贈与によりご自身が所有することになる財産の価値がどれくらいなのか、そしてそれに対して課せられる税金はいくらになるのか、ということでしょう。
後者は、相続税(贈与税)の税額算出方法がいかなるものなのかという話になるわけですが、ここを説明しだすと、それだけでかなりの量になります。
また、今回私が皆様にお伝えしたいのは、税額計算の話では無く、その前段階である、土地の評価に関する話です。
ですので、少し申し訳ないのですが、今回はそこは割愛することにしました。
税額の算出については別の機会にでも、改めて個別のテーマとして話をさせていただければと思います。
また、土地を評価する方法には色々なものが存在しているのですが、私は税理士ですので、ここでは税法による評価方法の概要を、数回に分けて、なるべく簡単に説明していこうと考えています。
<1> はじめに
「土地の評価の算定」と言葉で書けばわずか8文字のことですが、実作業はどうかというと、実は、これ、かなりややこしいものとなっています。
例えば土地を評価する専門家の国家資格に、不動産鑑定士がありますが、その試験は非常に難易度が高いことで知られています。
それと比べてしまうのは申し訳ないようなところもあるのですが、税法における土地の評価も、簡単とは言えないものとなっています。
もちろん、市街地に存在していて、正面のみが道路に面している、単純な正方形の宅地というような、かなり簡単に相続税・贈与税の財産評価額を算出することができるような土地もあります。
そういった土地であれば、変な話、掛け算さえ理解していれば、小中学生であっても、相続税法上の評価額を算出するのは簡単です。
ただ、当然ですけれど、世の中にはそういった分かりやすい土地ばかりが存在するわけではありません。
複雑な形状の土地、傾斜地に存在する土地、道路に面していない土地等々、千差万別です。
ですので、土地の財産評価額の算出は時に非常に難しいものとなり、一般の人には何をどうすればいいのか分からないものになってしまうことが、たびたびあります。
実際、税理士試験の相続税法の試験においては、非上場株式の評価と並んで、土地の評価に関し、合否を大きく左右するような難問がしばしば出題される傾向があるくらいです。
だからこそ、こうして、専門家として複数回を使ってご説明をさしあげる必要性も出てくるというわけですね。
なお、「財産が異動する時の課税関係」や、その際に(異動した財産を)「時価で評価することの必要性」、「税法が想定している時価の算出方法」については、以前に「非上場株式の評価」に関するご説明を3回にわけて行った際に、その第1回でさせていただいたので、今回は割愛いたします。興味のある方は、そちらをご参照ください。
miyauchikaikei.hatenadiary.org
財産の評価額は、本質的にはその財産が変質したりしない限りは1つしか存在しないとも考えられますが、実際には、その財産を評価する人の価値観(その人にとっての価値)や、評価の目的によって、全く同一の財産であっても変動します。
土地についても、公に使われるような評価額だけでも複数のものが存在しますので、まずは、それらについて解説を行います。
<2> 土地に対する5種類の評価
土地の評価額を調べようとしてネット検索をすると、同じ土地に対して複数の方法で値段が付されていることに気が付かれるかと思います。
ここで紹介するのは、以下の5種類の評価。すなわち、「実勢価格」、「公示地価」、「基準地価」、「固定資産税評価額」及び「路線価」です。
このうち、相続税や贈与税の計算で使うのは「固定資産税評価額」と「路線価」(一定の要件を満たす場合のみ、「実勢価格」を使うこともあります)だけなのですが、ここでは5種類の評価の全てについて、それぞれどういったものなのかを簡単に解説いたします。
1)「実勢価格」
土地の売買取引があった場合に、買い手と売り手の交渉などの結果として決定される実際の取引価格のことを指します。売買価格と言い換えてもいいでしょう。
私達が土地の価値について考える場合には、大抵の場合はこの「実勢価格」がイメージされているのではないでしょうか。
2)「公示地価」
国(国土交通省)が地価表示法に基づいて公表する土地の目安価格です。
「国土交通省土地鑑定委員会が、適正な地価の形成に寄与するために、毎年1月1日時点における標準地の正常な価格を3月に公示(令和2年地価公示では、26,000地点で実施)するもので、社会・経済活動についての制度インフラとなって」いると、国土交通省のHPには定義づけられています。
その主な目的は、「一般の土地の取引に対して指標を与えること」、「不動産鑑定の規準となること」、「公共事業用地の取得価格算定の規準となること」、「土地の相続評価および固定資産税評価についての基準となること」及び「国土利用計画法による土地の価格審査の規準となること」です。
そのような性格の価格なので、「実勢価格」に近似した金額が示されることが多く、土地の取引をする際の目安価格になります。
3)「基準地価」
都道府県が調査した土地の目安価格です。
全国のつづうらうらを網羅しているわけではない「公示地価」を補完するような役割があります。
「公示地価」とともに、「実勢価格」に近似したものとして土地価格の目安になります。
調査時点が「公示地価」とは異なるので、両者を比較することで、ある程度、地価の変化を見ることができます。
4)「固定資産税評価額」
「固定資産税評価額」は、土地や家屋などの評価方法を定めた「固定資産評価基準」に基づいて、土地や家の登記をした際に各自治体の固定資産評価員が1軒ずつ確認して決めています。
土地の「固定資産税評価額」は、毎年1月1日に定められる「公示価格」の約70%を目安として、土地がある地域(市街化区域や市街化調整区域など)やどのように道路に接しているか、形状や面積から細かく評価するものです。
その為、所有している土地の「固定資産税評価額」は、「公示地価」を基準にすることで(0.7で割ることで)概算できます。
また、原則的に、3年に1回のペースで評価額の見直しが行われます。
5)「路線価」
国税庁が調査した土地価格です。
主に都市部において、相続税や贈与税の宅地等の評価の基礎になります。
「路線価」は1年間の地価変動などを考慮して、公示価格の80%程度の水準で定められています。
つまり、路線価を1.25倍することで、「実勢価格」の目安を得ることができます。
<3> 土地の種類(地目)
土地の評価額には主だったものでも5種類があるということをここまで説明してきましたが、では、相続税や贈与税の財産評価をする際に、それぞれの土地の評価に用いるのは、このうちのどの評価額なのでしょうか。
その話をさせていただく前に、相続税における財産評価の指標である「財産評価基本通達」では、土地を全部で9つの種類に区分していることを知っていただく必要があります。
つまり、「宅地」、「田」、「畑」、「山林」、「原野」、「牧場」、「池沼」、「鉱泉地」及び「雑種地」です。
これを、その土地の「地目(ちもく)」と言います。
このように土地を細かい地目に分類するのは相続税だけに限った話では無くて、例えば固定資産税その他でも同様です。
つまりこれは、例えば同じ町内の隣接する同じ面積、同じ形の土地があったとして、その片方が「宅地」として使われ、もう片方が「畑」となっていた時に、その両者を、どちらも「土地」であるからと全く同じ方法、同じ金額で評価してしまうことが、果たしてその財産価値を適切に算出したものと言えるのか、土地の利用状況という事情を反映させないことは課税の公平上問題が無いと言えるのか、ということなのです。
そこで「財産評価基本通達」では上記の9種類の土地の分類(地目)を利用し、それぞれに評価方法を定めることで、この問題に対応をしています。
なお、土地を地目に分類するという行為はもともと、「不動産登記法」に基づいたものであり、地目の種類は「不動産登記規則」第99条に定められ、具体的な分類方法は不動産登記に関する手続きを定めた通達である「不動産登記事務取扱手続準則」の第68条と第69条に記されています。
ちょっと長いのですが、このうち、各地目について定義づけをしている「不動産登記事務取扱手続準則」第68条を引用してみましょう。
<地目>
次の各号に掲げる地目は,当該各号に定める土地について定めるものとする。この場合には,土地の現況及び利用目的に重点を置き,部分的にわずかな差異の存するときでも,土地全体としての状況を観察して定めるものとする。
一 田 農耕地で用水を利用して耕作する土地
二 畑 農耕地で用水を利用しないで耕作する土地
三 宅地 建物の敷地及びその維持若しくは効用を果すために必要な土地
四 学校用地 校舎,附属施設の敷地及び運動場
五 鉄道用地 鉄道の駅舎,附属施設及び路線の敷地
六 塩田 海水を引き入れて塩を採取する土地
七 鉱泉地 鉱泉(温泉を含む。)の湧出口及びその維持に必要な土地
八 池沼 かんがい用水でない水の貯留池
九 山林 耕作の方法によらないで竹木の生育する土地
十 牧場 家畜を放牧する土地
十一 原野 耕作の方法によらないで雑草,かん木類の生育する土地
十二 墓地 人の遺体又は遺骨を埋葬する土地
十三 境内地 境内に属する土地であって,宗教法人法(昭和26年法律第
126号)第3条第2号及び第3号に掲げる土地(宗教法人の所有に属しない
ものを含む。)
十四 運河用地 運河法(大正2年法律第16号)第12条第1項第1号又は第2号
に掲げる土地
十五 水道用地 専ら給水の目的で敷設する水道の水源地,貯水池,ろ水場
又は水道線路に要する土地
十六 用悪水路 かんがい用又は悪水はいせつ用の水路
十七 ため池 耕地かんがい用の用水貯留池
十八 堤 防水のために築造した堤防
十九 井溝 田畝又は村落の間にある通水路
二十 保安林 森林法(昭和26年法律第249号)に基づき農林水産大臣が保
安林として指定した土地
二十一 公衆用道路 一般交通の用に供する道路(道路法(昭和27年法律第
180号)による道路であるかどうかを問わない。)
二十二 公園 公衆の遊楽のために供する土地
二十三 雑種地 以上のいずれにも該当しない土地
<不動産登記事務取扱手続準則第68条>
「あれ、財産評価基本通達が9つに分類していると言いながら、もともとの規定では23種類あるじゃないか」、と思われたかもしれません。
その辺りの説明と、個々の地目ごとの具体的な評価額の求め方は、第2回以降にご説明していきます。