JR中央線 三鷹 (武蔵野市、吉祥寺) 所属税理士の日記

JR中央線、三鷹にある税理士事務所、宮内会計事務所に勤める所属税理士です。 税法や会計など、特に重要な話を抜粋したミラーブログです。

非上場株式の評価について(2)       ~非上場株式の評価における株主の区分~

同族会社である中小企業における事業承継、社長等の相続対策等を考える際には、その会社の自社株式をどのように承継するのかということが重要になります。


第1回でご説明したように、この時に、有償譲渡をするにせよ贈与をするにせよ、その株式がどれくらいの価値を持つものなのかが、しばしば問題となってきます。
第2回の今回は、非上場株式の評価額を計算するに当たって非常に大事な、保有目的の違いによる株主の区分について説明をしていきます。

 

<1> 区分により評価方法を変える必要性

 

株式の保有目的の違いと言われて、「売買目的有価証券」「投資有価証券(満期保有目的の債権)」という区分を連想した方もいらっしゃるでしょう。

これは自己が所有する株式等を、①その時価の変動によって利益を得ることを目的として短期間に売買を行うものと、②その株式等に投資することによって得られる配当等を目的としているもの、の2つに分けて分類する方法です。

 

現在の会計基準は、この両者を明確に区分してそれぞれに異なる取扱いを定めています。
ですので、簿記や財務諸表関係の勉強をした経験がある人には、馴染みのある区分方法だと思います。

 

ただ、今回私がご説明したいのは、これではありません。

 

「売買目的有価証券」と「投資有価証券(満期保有目的の再建)」という区分は、保有している株式を分類して、その会社の事業成績等を把握する目的で会計上異なる取扱いを行う為のものです。
今回の記事で皆さんに理解してほしいのはそれではありません。

具体的には、その株主が所有している様々な株式を銘柄ごとに2つの分類に分けるものではなく、同一の株式を所有している複数の株主が、それぞれその株式をどういう目的で所有しているのかという観点から、その株主にとってのその株式の価値の計算方法を決定する為の区分方法です。

 

つまり、Aさんが所有するB社、C社、D社の株式の区分を行うのではなく、E社の株式を所有するFさん、Gさん、Hさんの区分を行うのです。

 

両者が全く異なるアプローチであることは、ご理解いただけると思います。

 

この区分を行う際に着目するのは、その会社の発行済株式総数(議決権数)に対する、その株主の保有割合です。
言い方を変えれば、その会社に対する発言権の大きさと表現することもできるでしょう。

 

会社の所有者は株主です。
そして、株主が有する会社に対する権利の大きさは、保有している議決権数に比例します。
例えば、議決権を有する発行済株式の大半を所有している株主は、自分の考えを会社経営に反映させることができることから、実質的にその会社を支配していることになります。
一方で、わずかな議決権しか有さない株主は、会社の経営に対する発言権はほとんど無いことになります。
この両者に対して、その保有株式を同額で評価することは、果たして本当にその株式の価値を適切に反映していると言えるのでしょうか。

 

その点について書く前に、まず、株主の区分を行う際に重要となる概念、「同族株主」、「中心的な同族株主」及び「中心的な株主」についてご説明します。
これは、非上場株式の評価方法を決定する際の核となる部分の話をする前に、そこで使われる用語について理解をしておいていただきたいからです。

 

<2> 「同族株主」

 

株式が非上場の会社、特に中小企業であれば、その発行済株式の全てあるいはそのほとんどが特定の株主又はその株主の親族によって所有されていることが多いでしょう。
そのように、その会社の株のほとんどを所有するような株主のことを「同族株主」と呼びますが、「財産評価基本通達」では、この「同族株主」のことを次のように定義しています。

 

<同族株主の定義>
「同族株主」とは、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令第4条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいう。以下同じ。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいう。
(財産評価基本通達188(1))

 

ここでいう「同族関係者」とは、その株主と次のような関係にある個人又は法人のことをいいます。

 

<個人>
① 株主の親族(配偶者、6親等内の血族、3親等内の姻族)
② 株主と婚姻の届出はしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
③ 株主の使用人
④ ①~③以外で株主から受ける金銭その他の資産によって生計を維持している者
⑤ ②~④と生計を一にするこれらの者の親族

 

<法人>
① 同族会社であるかどうかを判定しようとする会社の株主の1人が、他の会社を支配  している場合における当該他の会社
② 同族会社であるかどうかを判定しようとする会社の株主の1人及び①の会社が他の会社を支配している場合における当該他の会社
③ 同族会社であるかどうかを判定しようとする会社の株主の1人及び上記①及び②の会社が他の会社を支配している場合における当該他の会社
④ 同一の個人または法人の同族関係者たる個人または法人が、同族会社の判定をしようとする会社の株主であるときは、その同族関係者である2以上の会社は、相互に同族関係者であるものとみなされる

 

<法人>の項における「株主の1人」とは、判定の対象となる納税義務者に限らず、その同族株主のグループに属する他の株主も含みます。
つまり、そのグループ内の株主の誰か1名を中心に判定して要件を満たすのであれば、その法人は「同族関係者」に該当することになるのです。

 

ここまで一通り文字で説明をいたしましたが、分かりにくい、つまりどういうことなのかが掴めない、という方もいらっしゃるだろうと思います。

 

敢えて細部を省略してごく簡単に説明するならば、非常に近しい関係の親族や、その親族の実質的に支配する会社が保有する株式の議決権数を合計した結果、評価対象となる会社の議決権総数の30%以上を有するような場合に、その判定に用いた株主のグループのメンバーのことを「同族関係者」と言うと思っておいていただければ、いいでしょう。
詳細な判定は、その必要が生じた時に上記を確認しながら行っていただけばいいですし、税理士などのプロに依頼していただいてもいいと思います。

 

<3> 「中心的な同族株主」及び「中心的な株主」

 

「同族株主」の中で、特定の範囲内の株主の保有する議決権数が一定数を超える者のことを、「中心的な同族株主」と言います。

ちょっと長くなりますが、具体的には、その時点において、同族株主の1人、その株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族(ここに挙げた者の同族関係者である会社のうち、これ等の者が所有するその会社の議決権の合計数がその会社の議決権数の25%以上である場合の、その会社を含みます)の所有する議決権の合計数が、その評価対象となる会社の議決権総数の25%以上である場合に、その同族株主のことを「中心的な同族株主」と言います。

 

なお、直系血族とは、その者の親、祖父母、総祖父母、子、孫、曾孫など、家系図においてその者のまっすぐ上か、まっすぐ下に書かれていく者のことです。兄弟・姉妹、叔父・伯父や叔母・小母、従兄弟・従姉妹は含みません。
厳密には少し違いもありますが、敢えて単純化した説明をするならば、その株主のごく近い家族か、あるいはその株主とその家族で支配しているような会社が保有している株式の議決権総数で、評価対象となる会社の経営判断を左右できるような場合に、その株主を「中心的な同族株主」と呼ぶのだと、ざっくりと認識していただいてもいいかもしれません。

 

「中心的な同族株主」が、同族株主の中から中心となる者をピックアップする概念だとすると、同族株主が存在しないような会社の株主の中から、中心となる者をピックアップする概念が「中心的な株主」だと言えます。
その時点において株主の1人及びその同族関係者の有する株式の議決権の合計数が、その評価対象会社の議決権総数の15%以上である株主グループのうち、単独でその会社の議決権総数の10%以上を所有している株主がいる場合に、その株主のことを「中心的な株主」と言います。

 

非上場会社において、ここに挙げたような株主が存在する場合、それ以外の株主にとって、その保有する株の価値はどのようなものでしょうか。


会社を支配している株主にとって、その株式を所有していることは会社を自分が所有していることと、ほぼ同義ですので、その会社そのものの経済的価値が株式の価値に直結してきます。
それに対して、他に支配的な株主が存在する場合のその他の株主は、自身の意見を会社の経営にストレートに反映させることはできませんから、その会社を所有しているとは言えません。
そこで税法では、このような株主は、その会社から配当金を得ることを目的として株式を所有しているのだとみなして、評価額を算出することとしています。


なお、実際に配当が行われているかどうかは、ここでは問われません。
あくまで、非上場会社の株主を、支配を目的としている(会社の所有を目的としている)株主と、配当を受け取ることを目的としている株主とに形式的に分類し、それぞれに異なる評価方法を適用させる為の区分です。

 

以上、今回は、非上場株式の評価を行う際に重要となる、株式の区分について簡単に説明を行いました。
次回は、それぞれの区分ごとに、「財産評価基本通達」がどのような評価方法を定めているのかを、なるべく簡単にご説明いたします。