JR中央線 三鷹 (武蔵野市、吉祥寺) 所属税理士の日記

JR中央線、三鷹にある税理士事務所、宮内会計事務所に勤める所属税理士です。 税法や会計など、特に重要な話を抜粋したミラーブログです。

非上場株式の評価について(1)       ~「時価」による財産評価の意義~

同族会社である中小企業における事業承継、社長等の相続対策等を考える際には、その会社の自社株式をどのように承継するのかということが重要になります。
基本的には、現社長などが保有する自社株式を後継者候補に移転していくことが事業承継等には必要になるわけですが、この時にその株式の評価額がどのようなものになるのか、言い換えれば、その株式の「時価」がいくらになるのかが、大きな問題となってきます。

 

そこで、これから4回に分けて、非上場株式の評価をどのように行うのかについて書かせていただきます。
第1回となる今回は、前提条件である、税法における「時価」の基本的な考え方を、第2回は評価の前提となる株主の区分を、第3回は 評価額算出方法を要約してご説明します。

 

すぐに本題に入らずに要らない話をしていると思われるかもしれませんが、今回の内容を理解しておいていただくことが、第2回以降に必要になってきますので、ご容赦ください。

 

<1> 財産の異動に対する課税

ある人から別の人に、所有財産の異動が行われる場合、その課税関係はどのようになるのでしょうか。


日本の税法は、個人に課税する所得税法相続税法、そして法人に課税する法人税法も、取引によって経済的な利益が生じる時に、その利益を得た者の獲得した利益相当額に税金を課す、利益課税を原則としています

 

例えば、財産を有償で異動する場合、つまり、売買取引が行われる場合を考えてみましょう。
この時、財産を譲渡した者には、譲渡を受けた者から、その異動した財産に係る対価が支払われます。
この対価から、その譲渡をした者がその財産を取得するのに要した費用、つまり取得価額(減価償却資産であれば、毎年の減価償却を反映した現在の残存帳簿価格、以下同じ)を差し引いた残高がプラスであれば、その者はその取引から利益を得ていることになります。
この利益に対して、税金(譲渡所得税)が課せられるのです。

 

反対に、差し引いた結果がマイナスになるのであれば、その取引からは利益ではなく損失が生じたこととなり、譲渡した者に対する課税は行われません
これが、基本的な考え方です。

 

ただし、この考え方は、売買取引は基本的に適正な取引価格で行われるものだという前提に立っています
売買が行われた時点における適正な価格、その財産の評価額として正しい価格、すなわち、時価です。

 

一般論として、通常であれば、好きこのんで訂正な価格よりも高い値段で物を買おうという人はいないでしょうし、適正な価格よりも低い値段で物を売ろうという人もいないでしょう。

しかし、売主の側がなるべく早く財産を処分する必要性を有していることから安価で売却することや、双方の関係性から通常よりも高い値段で取引を行うことになるということも、無い話ではありません。

 

また、相続や贈与というのは無償で行われるものですから、財産を手放す人の側が受け取る対価がそもそも存在しません。
このような場合、上記の原則的な考え方に則ったら、そこに利益は存在せず、課税も行われないということになります。
しかし、それは正しい認識なのでしょうか。
そこで次に、こういった特殊な財産移転取引が行われた際における、税法の「利益」の考え方を確認してみましょう。

 

<2> 「時価」把握の重要性

 

まず、通常よりも著しく高い価格で取引が行われた場合を考えてみましょう。

これは簡単な話ですよね。

 

財産の譲渡者は本来受け取るものよりも多い金額を手にすることになりますが、この場合、時価」と取引価格との差額は、その取引によって購入者から特別に供与された利益となります
時価での取引が行われた場合と比べると、この利益分だけ、譲渡者が受け取る利益も増えますが、取得価額と時価との差額相当額部分に譲渡所得税が課税されることに変わりはありません。

 

次に、通常よりも著しく低い価格で取引が行われた場合はどうでしょうか。


この場合には、財産を譲り渡した者は本来得られるはずだった金額よりも低い対価を受け取ることになるので、むしろ損をしていることになります。
それでも取得価額よりも対価の方が高ければ、その差額部分(利益部分)に関しては譲渡者への譲渡所得税の課税が行われます。
一方で、財産を譲り受けた者の側は、支払う金額が少なくなった分だけ得をしています
つまり、このような場合、財産を譲り受けた者が、「時価」と実際に支払った取引価格との差額分だけ、無償で利益を得ていることになり、その利益相当額部分が贈与税課税の対象となります。

 

上記2つの事例に比べるとずっと簡単なのは、無償で財産の異動が行われる、相続又は贈与の場合でしょう。
というのも、この取引で利益を得るのは、本来ならば支払うはずの対価を支払わずに済んだ側であるのが明白だからです。
つまり、相続又は贈与により財産を取得した者は、その財産の「時価」相当額の利益をその時点で得たことになるので、その時価」相当額がそのまま相続税贈与税の課税対象となるわけです。

 

財産の異動が行われた場合の課税の取扱いにおいて、時価」の把握というものが非常に重要であることが、以上の説明でお分かりいただけたと思います。


それでは、そのように重要な「時価」は、どのように求められる(算出される)ものなのでしょうか。

 

その財産に関し、広く一般に開かれていて盛んな取引が行われている市場が存在している場合は、話が簡単です。
先にご説明したように、売買取引は基本的に「時価」で行われるものだというのが基本的な考え方としてあるわけですから、その市場の売買価格が、すなわちその財産の「時価」であるということになるからです。

 

とはいえ、財産と呼べるものの全てにそのような市場が存在しているわけではりません。

 

そういった、市場の存在しない財産については、何らかの方法で「時価」を出さなければならないわけですが、その算出を個々人がそれぞれ自分なりの方法で、自由に行ってしまうのは、よろしからざる状態です。


例えば、全く同じ日に同じ財産をそれぞれ贈与により取得したAさんとBさんという人物がいるとします。
贈与税の計算をするにあたり2人は、それぞれが適切と考える方法を用いました。
その結果、Aさんはその財産を200万円、Bさんは100万円と算出しています。
贈与税を計算してみましょう。
2人とも同じ年に他の贈与を受けていないとすれば、Aさんは贈与税基礎控除110万円を超えた90万円に対し10%の税率を乗じた9万円を納めなければなりませんが、Bさんは110万円の基礎控除額の範囲内での取得になるので税額は発生しません。
どちらも全く同じものを同じ日に取得しているのに、これは不公平でおかしな話です。

 

そこで、この財産であればこういうやり方で「時価」を算出しましょう、という一定の規則、絶対的なものとまでは行かないまでも、目安あるいは指針になるべき基準が求められることになります。

 

<3> 財産評価基本通達

 

国税庁が様々な財産についてその評価方法を公開している、「財産評価基本通達」というものがあります。


これは「法令解釈通達」と呼ばれるものの1つであり、税法などの解釈や細かい取扱い等について、国税庁長官国税局や税務署等の下位の各機関に対して出した指示であるとお考え下さい。
つまり、あくまでこれは課税当局の内部的な取扱い文書であって法律では無いので、強制力、法的拘束力は持っていません。
とはいえ、課税当局側の考え方が分かるというのは非常に大きな意味のあることです。

 

強制力や法的拘束力が無いということは、納税者が「時価」を算出するにあたって「財産評価基本通達」の方法を用いなければならないわけではなく、客観性のある適切な方法であれば「財産評価基本通達」以外の方法でも構わないとも考えられます。
しかし、① 「財産評価基本通達」は課税当局が作成した合理的な計算方法であること、② 納税者独自の「時価」の算出方法を巡っては課税当局と納税者との間で争いが発生しがちであること、の2点から、「財産評価基本通達」に従うことにとりたてて不都合や納得できない事情がない限りは、取引市場のある財産、取引市場の存在しない財産を問わず、「財産評価基本通達」記載の評価方法を用いることが一般的になっています。

 

ここで、今回これまでご説明してきたことを確認する意味も込めて、財産の評価基準、特に、今回のテーマである株式の評価に関する「財産評価基本通達」の規定を見てみましょう。

「財産評価基本通達」は、以下のように、相続や贈与による財産の異動が行われた際の、その財産の価額の評価方法を定めています。

 

<評価の原則>

財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(……中略……)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。

(財産評価基本通達1(2))

 

回りくどい言い方になっていますが、つまり、財産を取得した時点における通常の適正取引価格、すなわち「時価」が、その財産の評価額であるということが書かれています。


「財産評価基本通達」は相続税法に関係する通達ですが、相続や贈与ではない、所得税法人税の課税対象となる譲渡の場合(著しい高い価額あるいは著しく低い価額での譲渡を含む)も、取引市場の存在しない財産であれば、その「時価」の算定には「財産評価基本通達」を準用することが一般的です。

 

また、市場の存在する株式、すなわち上場株式の評価について「財産評価基本通達」は次のように定めています。

 

<上場株式の評価>
上場株式の評価は、次に掲げる区分に従い、それぞれ次に掲げるところによる。
(1) (2)に該当しない上場株式の価額は、その株式が上場されている金融商品取引所(国内の2以上の金融商品取引所に上場されている株式については、納税義務者が選択した金融商品取引所とする。(2)において同じ。)の公表する課税時期の最終価格によって評価する。ただし、その最終価格が課税時期の属する月以前3か月間の毎日の最終価格の各月ごとの平均額(以下「最終価格の月平均額」という。)のうち最も低い価額を超える場合には、その最も低い価額によって評価する。
(2) 負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得した上場株式の価額は、その株式が上場されている金融商品取引所の公表する課税時期の最終価格によって評価する。
(財産評価基本通達169)

 

基本的に、上場株式の評価は財産の異動が行われた日の終値で行われるとされていることが分かります。
市場の株価は一時的な相場の動きから、ごくまれに適正とは言えない価格になることも考慮され、異動日の終値以外の価額を使う場合も定められていますが、基本的には当日の「時価」が評価額になります。

 

では、今回のテーマとなっている、市場の存在しない非上場株式の場合、その評価額を「財産評価基本通達」はどのように定めているのでしょうか。
次回以降は、それを確認していきます。