JR中央線 三鷹 (武蔵野市、吉祥寺) 所属税理士の日記

JR中央線、三鷹にある税理士事務所、宮内会計事務所に勤める所属税理士です。 税法や会計など、特に重要な話を抜粋したミラーブログです。

中小企業の事業承継について(2)      ~事業承継の課題 ②~

日本の経済を根底で支えているのは、大手上場企業ではなく中小企業であるとしばしば言われます。
中小企業の経営者の多くが高齢化を迎えている中、会社の存続がどうなるのかというのは、非常に大きな課題となっています。
そんな、非上場の同族企業である中小企業を題材に、事業承継を巡る基本的な諸事項を、税法的な観点から総合的に説明をする文章の、今回は第2回になります。

株式会社の所有者は、株主です。
代表取締役社長は、所有者である株主から会社の経営を委託されている存在に過ぎません。

この記事で題材としている株式非公開の同族会社である中小法人(株式会社)では、多くの場合、代表はオーナー社長です。
ですので、意識したことはほとんど無いかもしれませんけれども、会社を所有することと経営することは別の行為です。

会社の経営を引き継ぐこと(代表取締役に就任すること)と会社の所有を引き継ぐこと(自社株式の所有を移行すること)を区分して考えるのが、「事業承継」の基本です。

 

<1> 経営者の変更と所有者の変更

 

株式非公開の同族会社である中小法人(株式会社)では、往々にして経営者と所有者が一致します。
「事業承継」も両者を一括して行うものだという印象があるでしょう。
それはそれで、決して間違った考えではありません。

代表権の異動と株式の異動が分離されるパターンとしては、例えば、後継者候補の息子さんがまだ経験不足で未熟な場合に、リリーフとして番頭格の社員に一旦代表権を渡すようなケースが考えられるでしょう。

取締役の解任は株主総会の決議事項です。
そのことから、代表者交代後も株式を一定数保有し続けていれば、株主と代表者が対立した場合でも、取締役解任の決議案を株主総会に提出し、解任することもできます。
つまり、万が一にもリリーフに入った番頭格の社員が息子さんに経営を引き継ぐ意思がないと言い出したとしても、代表者交代後も株式を一定数保有し続けていれば、取締役解任の決議案を株主総会に提出し、解任することもできるのです。

なお、取締役を解任するには、旧商法の時代には出席株主の議決権数の2/3以上の賛成が必要とされていました(特別決議)。
しかし、現行の会社法では第341条に「第三百九条第一項の規定にかかわらず、役員を選任し、又は解任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならない。」とあるように、定款で特段の定めをしていない限り、総議決権数の過半数の賛同を得られれば取締役の解任ができると規定しています(普通決議)。
この点を覚え違いされている方も意外と多いので、お気を付けください。

自社株式を引き継ぐ相手は、基本的には、それが「親族」であれ「親族以外の第三者」であれ、後継者候補である場合が多いでしょう。
上記の番頭格の社員がリリーフとして代表者となるケースの場合は、その後に予定されている親族への再度の代表者交代を担保する意味でも、後継者ではなくあくまで親族内で株式を保有し続けることになるでしょうが、同族会社である中小企業の場合、一般的には、会社の経営と所有は紐づきになっているものです。
つまり、事業承継を考える際には、自社株式の異動についても検討することになります。

株主の地位の承継は、要するに自分が持っている自社株式を後継者候補等に渡すことです。
こう書いてしまうと非常に簡単なことに思えるでしょうが、税法的には、そんなに単純な話ではありません。
そこで次は、自社株式の異動時に想定される課税関係のことを説明いたします。

 

<2> 株式の異動と課税

 

Aさんという株主から、Bさんという株主に株が移動するという場合、そこで行われる取引は、有償での移動と無償での異動に分かれます。
有償での異動は「譲渡」、無償での異動は「贈与」又は「相続」であり、その内容により、順に所得税贈与税相続税が課せられることになります。

これらは税目が異なるので計算方法も異なりますが、どれも皆、「利益」に対して課税されるという点では同じです。

では、株式が異動した場合にどのような利益が生じると考えられるのでしょうか。

「譲渡」の場合は、Aさんが株式を取得した時の金額と、Bさんから受け取る売却価格の差額が、Aさんの利益になります。
なお、この時に、その株式の時価より著しく低い金額で売買を行うと、その差額も利益とみなされて株式を購入したBさんの側に課税されることがあります。
例えば時価が100万円である株式を、AさんがBさんに対して40万円で売却した場合を考えます。
この時、税務的には、差額の60万円についてAさんからBさんに対する贈与がおこなわれたものとみなされるのです。
これを避けるということからも、株式の譲渡は、時価で行うのが基本です。

「贈与」の場合は、Aさんから無償で株式を取得したBさんが、株券の時価相当額の利益を獲得したことになりますので、Bに対して贈与税の課税が行われます。
この時、贈与税は年間110万円の基礎控除があることから、Bさんに渡す株式の時価総額が110万円以下であるように調整すれば、贈与税は発生しません。

しかし、ここで注意すべきなのは、贈与税が暦年課税(毎年1月1日~12月31日までの期間で計算を行う)であることと、財産を無償で受け取った人ごとに税額計算を行う「受益者課税」の税金であるということです。
つまり、例えAさんからBさんへの株式の贈与を総額110万円以下に抑えた場合でも、Bさんが同年にそれ以外の財産の贈与(Aさん以外からの贈与も含みます)を受けているのであれば、それも合算した年間の受贈額を算出し、それが110万円を超える部分に対しては贈与税が課税されるのです。

「相続」の場合、Aさんが亡くなったことでBさんに株式の所有権が異動します。
これも「贈与」同様、Bさんが対価を支払うことなく株式という財産を手にすることになりますので、相続により受け取った株式の時価総額分の相続税がBさんに対して課されます。
なお相続税にも贈与税同様に基礎控除額が存在します。
しかし、自社株式の他にどれくらいの相続財産があるのかということも含め、相続税の計算は複雑なものですので、ここではこれ以上の説明はいたしません。

以上のことから分かるのは、「譲渡」、「贈与」、「相続」いずれの場合であっても、課税関係を考える際に重要になるのは、後継者に引き継がせる時点での自社株式の時価がいくらになるのか、ということです。

これが上場株式であれば、その時価は証券市場での取引価格を調べることで簡単に導くことができるでしょう。
しかし、非上場株式は市場での売買が行われないためにそれが存在しないので、特別な計算を行って、時価を算出することになります。

 

<3> 非上場株式の時価評価

 

一般に、非上場株式の時価は、総資産額から総負債額を差し引いた残額、すなわち純資産の部の金額を、発行済み株式総数で割った金額であると言われます。
算額を算出するのであれば、通常それで問題はありません。
しかし実際に「譲渡」「贈与」「相続」に関する税額を計算する際には、「財産評価基本通達」に定められている、もう少し細かい計算を行うことになります。

これも丁寧に書こうとすると話が長くなるので、ここでは概要をざっと説明するに留めさせていただきます。

非上場株式の評価方法には大きく2つあります。
すなわち、「原則的評価方法」と「特例的評価方法」です。

「原則的評価方法」はその名の通りに原則的に用いられる方法であり、会社の規模等によって更に3つの方法、「純資産価額方式」「類似業種批准方式」「併用方式」のいずれかを用います。

「純資産価額方式」は上記の一般的な考え方に近い計算方法です。
しかしh、その会社が所有している有価証券や土地建物など、帳簿に記載されている購入価格と実際の時価が乖離することが多い資産を所有している場合などには、概算計算と正式な計算結果は大きく違ってくることもしばしばです。

「類似業種批准方式」は評価対象の会社と同じ種類の事業を営んでいる上場会社の株価、配当金額、利益金額などの要素を使って非上場会社の株価を求める方法です。

「併用方式」は上記2つで算出される価額を、一定の比率で合算する方法になります。

「特例的評価方式」は原則的な方法が適用されない株主に使われる計算方法です。
具体的には、評価対象となった会社が行う株主配当の額を基にした「配当還元方式」で株価を算出します。

では、上記2つの評価方式のうちのどちらが適用されるかの判定は、どう行われるのでしょうか。

ここも細かく説明しだすと長くなるのですが、おおざっぱに、「同族株主等」であれば原則、「同族株主等以外」であれば特例を用います。

前者は会社の支配を目的として株を保有する株主、後者は支配できるほどの持株比率の無い株主です。
支配目的であれば、その株式の評価額は当然、会社本来の価値を示すものを用いるべきですから、原則的な方式を使って算出することになります。
一方、支配権を有さない株主については、ざっくりと「配当の支払を受ける為」に保有しているものとして特例的方法、すなわち「配当還元方式」を使って算出されます。

なお、これ以外にも、開業3年以内の会社である場合や、総資産のうちに土地等が占める割合の高い場合等、一定の要件に該当する場合には、特別な計算式を用いて株式の評価額を算出することが規定されています。
この辺りは、そういうこともあるのだなという程度に理解しておいてください。

「財産評価基本通達」の内容はネットで検索することもできます。
しかし、かなりややこしい話もありますので、自社の株価が実際のところいくらになるのかということが知りたい場合は、顧問税理士などの専門家に算出してもらうことをお勧めします。

 

<4> まとめ

 

事業承継に係る3つの課題のうち、手続が最も簡単なのは、前回に取り上げた代表者の変更登記を行うだけでいい「誰に会社を引き継がすのか」という問題です。
それに対し、今回ご説明した「自社株式をどのように引き継ぐのか」という問題は、有償で株式を異動するのか、あるいは無償で異動するのかで課税関係は変わってきますし、自社株式の時価がいくらになるのかで、所得税贈与税相続税の額も変わってきます。

このことから考えると、株式非公開の同族会社である中小法人(株式会社)で事業承継を考える際に、後継者を誰にするのかというのは本質的に重要な要素ではあるものの、技術的・実務的には、自社株式を誰に、そしてどのように引き継いでいくのかが大きな課題になってくるということができます。