JR中央線 三鷹 (武蔵野市、吉祥寺) 所属税理士の日記

JR中央線、三鷹にある税理士事務所、宮内会計事務所に勤める所属税理士です。 税法や会計など、特に重要な話を抜粋したミラーブログです。

適格請求書発行事業者登録番号の申請(2)      ~免税事業者・簡易課税制度~

令和5年10月の制度開始の2年前である今年の10月から「適格請求書発行事業者登録番号(インボイスナンバー)」の発行申請が受付開始となることを受けて、いわゆる「日本版インボイス制度」を改めて解説するエントリー。
今回は、その第2回になります。

 

日本版インボイス制度を理解するには、まず、我が国における消費税の課税・徴収システムを理解する必要があります。
そこで、前回は担税者と納税者が異なる間接税である消費税の、基本的な課税構造をご説明しました。
基本とはいえ、前回の内容をご理解いただければ、世の取引に係る消費税の取扱い、課税の仕組みについてのほとんどが、その応用で説明できます。

 

今回は前回の補足として、免税事業者についての話を中心に、消費税の体系の中ではイレギュラーな、特例的取扱いとなる事業者のことを説明いたします。

 

<1> 免税事業者

消費税を負担するのは消費者ですが、それを実際に納付するのは、商品やサービスの提供時(販売時)に対価と共に消費税を預かった事業者です。
事業者は定款に定めた事業年度(個人事業者の場合は毎年の1月1日~12月31日の暦年)ごとに、その期間中に預かった消費税と、自らが支払った(預けた)消費税の差額を算出し、それを税務署に納付します。


やや極論になりますけれども、そのことをして、消費者と国とが消費税に関する計算や管理を事業者に任せているという構造だと言うこともできるかもしれません。
つまり、見様によっては、事業者に消費税に係る事務を負担させていると捉えることもできるのです。


例えば東証一部に上場しているような大企業であれば、それくらいの事務負担はどうということもないと思います。
では、それが例えば零細企業や個人商店等であればどうでしょう。

 

今現在であれば、商店街の八百屋等でも会計処理にパソコンを利用していて、優秀なフリーソフトも存在しますから、1日の売上が数万円というような個人商店でも簡単に消費税の管理ができるかもしれません。
しかし、消費税が導入された平成元年(1989年)の時点では、大ヒットとなったWindows95も発売されておらず、まだまだパソコンは一般に広まっていませんでした。
そういう状況で、小規模な個人商店の店主に消費税の管理計算まで負わせるのは酷ではないかということで、一定規模以下の事業主には、消費税の納税義務を免除するという、免税点制度が、その当初から設けられています。

 

こういう話をすると、当然、この場合の「小規模」というのはどの程度からのことを言うのか、その判断はどのように行われるのか、ということが気になってくると思います。
例えば税務署の職員等が事業者の規模を1つ1つ細かくチェックして、事務処理負担を軽減すべきか、そうではないかということを認定していくというのは現実的ではありません。
その為、そこには定数的な基準が必要になります。

 

では、どのような数値がその基準になるのでしょう。

 

会社の規模を示す指標となるものとして考えられるのは、例えば資本金等の額がそうですし、従業員数や、給与総額等も上げられるでしょう。
そんな中で消費税法が採用した基準が、課税売上総額です。
より具体的には、一事業年度(事業年度が1年ではない場合は1年に換算します)の課税売上額が1,000万円を超えるか否かが、消費税の免税事業者に該当するかどうかの分岐点になります。

 

この基準を満たして消費税の課税事業者になった場合、自分が販売先から預かった消費税と購入先に預けた消費税との差額を税務署に納付しなければなりません。
その為には、売買取引等を行った場合には、その対価の内の物品・サービス等の本体価格と、その物品・サービスに対して課される消費税とを区別して記帳する必要があります(免税事業者であれば、そのような処理を行う必要はありません)。

 

<2> 基準期間

ここで、例えば4月1日~3月31日という事業年度の法人があったとして、期首時点ではその事業年度の課税売上高が900万円程度になると見込まれたており、免税事業者として会計処理を行っていたとします。
しかし、決算間近の3月に大きなスポット売上が発生したことで、期中の課税売上高が1,000万円を超えることになります。
この時に、この事業年度が課税事業者になるからと、期首の時点から全ての会計処理・仕訳を訂正し、本体価格と消費税とを分離していくというのは、あまりにも手間がかかり過ぎて、現実的ではありませんよね。
また、免税事業者であることから消費税を上乗せしないで売上代金を徴収していたのを、金額の誤りとして今から全ての取引先に消費税分を請求できるかも大いに疑問です。
そう考えれば、その事業年度が課税事業者になるのか免税事業者になるのかは、事業年度開始の時点で明らかになっていなければなりません

 

そこで消費税法は、課税事業者か免税事業者かの判定時期を、その事業年度以前の事業年度の課税売上高に求めることにしています。
この、課税・免税の判定を行う時期のことを、「基準期間」と言います。

 

当然ですが、その事業者の現況を反映させるためには、基準期間はなるべく直近の事業年度を用いることが望ましいと考えられます。
しかし、当期に一番近い前期の課税売上高については、残念ながら、当期の開始時点においては未だ確定していないことも多いでしょう。
例えば納品先の検収を待っているとか、電力販売業を営んでいてメーター等を確認しないと売上が確定しないとか、そのようなケースです。
預かった消費税額から控除する預けた消費税額も、仕入等に係る請求書が送られてこないと最終確定できないということも多いと思います。
つまり、期首時点の消費税に係る処理を明確にしよう(課税事業者に該当するか否かを判断しよう)としても、直前期の事業年度を「基準期間」とするのでは、難しいのです。

税法上も、消費税の確定申告書の提出期限は、法人の場合はその課税期間終了の日の翌日から2ヶ月以内、個人の場合は3ヶ月以内と定められています。
ですから、当期がだめなら前期の数字を使いたいと思っても、当期首の時点ではまだ確定申告が行われておらず、税法上の課税売上高の正式な最終集計はまだ出ていないのです。

 

そこで次善の策として採用されているのが、当期開始時点で、その期間の課税売上高が確定している一番直近の課税期間である、前々期の数字です。
つまり、2つ前の事業年度の課税売上高を判定基準とするのであり、これを消費税法では「基準期間の課税売上高」と言います。

次の図をごらんください。

  

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基準期間の考え方

 事業年度が1年未満の時の調整や、設立時の資本金の額が1,000万円以上の場合には強制的に課税事業者になるという規定や、直前事業年度開始の日から6ヶ月間の期間における課税売上高と支払給与総額(役員報酬や賞与を含みます)が1,000万円超の場合に課税事業者となる特定期間の規定など、課税事業者・免税事業者の判定には、まだ細かい規定が存在するのですが、話が長くなってしまうので、ここでは原則的な判断基準である基準期間の課税売上高を用いる判定の説明だけにとどめておきます。

 

この話をした時に多い誤解が、では、例えば基準期間の課税売上高が1億円であった場合、今期はその1億円の売上があった前々期に対応する消費税額を納めなければいけないのだろうか、というもの。
実際には、「基準期間の課税売上高」はあくまで当期に消費税の納税義務があるか無いかを判断する為に用いる数字に過ぎないのであって、課税事業者となったその事業年度(今期)に幾らの消費税を納める必要があるのかの計算は、今期に発生した課税売上高(と課税仕入高)を使って算出します


極端な話、今期の課税売上が500万円(税抜)で課税仕入が400万円(税抜)の場合、例え基準期間の課税売上が1億円(税抜)で課税仕入が4,000万円であったとしても、今期に納めるべき消費税は、500万×10%=50万円(預かった消費税)から400万×10%=40万円(預けた消費税)の差額である10万円となるのです(1億×10%-4,000万×10%=600万円ではありません)。

 

<3> 簡易課税制度

日本版インボイス制度の話とはあまり関係してこないので簡単に済ませますが、消費税にはもう1つ、簡易課税制度という規定も存在します。


これは、消費税の会計処理により生じる事務負担を小規模の事業者に負わせるのは酷ではないかという、免税事業者の考え方の延長にあるような制度で、端的に言うならば、免税事業者になる程の小規模事業者では無いものの、消費税と本体価格とを逐一分解して仕訳を切っていくようなことは事務負担として大きすぎると考えられるような事業者に対して、選択肢として、簡易的な計算で消費税の納税額を算出することも認めるというものです。

 

この簡易課税制度を選択した場合には、納付すべき消費税額を算出するに当たって、課税仕入の金額、すなわち仕入先等に預けた消費税の金額は、一切使いません
計算に使うのは、各課税期間の課税売上の金額だけです。
預かった消費税から差し引く金額については、全ての事業者を6つの事業区分に分類して、それぞれ、この業種であればこれくらいの仕入を行うだろうという一定のパーセンテージを用いた見なし計算を行います。

 

例えば、卸売を営む事業者の場合を例としてみます。
卸売業の「みなし仕入率」は90%とされています。
つまり、その期間の課税売上高が3,000万円(税抜)の場合、この金額に「みなし仕入率」90%を乗じた2,700万円(税抜)が、商品の仕入や経費の支払い等、消費税が課税される支払額の総額であると考えるのです。
即ち、2,700万円×10%の270万円が、売上に係る消費税額(実際に預かった消費税)である3,000万円×10%の300万円から、仕入税額控除によって差し引かれることになります。

 

簡易課税制度においては、実際の仕入額がいくらだったのか、購入先に預けた消費税はどれくらいなのか、ということを一切無視して税務署への納付額が決定されます。
ですから、第1回でご説明したような、実際の担税者である消費者が負担した消費税額と、国庫に納められた消費税の合計額とが一致しなくなるという弊害が存在することは否めません。


担税者と納税者が異なる間接税である消費税で、消費者が負担する税が過不足なく国庫に納まる為に作られたシステムがここで綻ぶわけですが、それを承知でなお、納税者の事務負担軽減に重きを置いたのが、簡易課税制度であると言えるでしょう。

 

以上、2回に渡って消費税の基礎をご説明してきました。
次回は、いよいよ本題である「適格請求書等保存方式」(日本版インボイス制度)の説明をいたします。