JR中央線 三鷹 (武蔵野市、吉祥寺) 所属税理士の日記

JR中央線、三鷹にある税理士事務所、宮内会計事務所に勤める所属税理士です。 税法や会計など、特に重要な話を抜粋したミラーブログです。

適格請求書発行事業者登録番号の申請(3)      ~適格請求書方式の導入~

今から約2年後の令和5年10月に導入させる「適格請求書方式」(日本版インボイス制度)。
軽減税率の導入と同時に改正され、移行期間を置いての実施となるこの制度の核となる「適格請求書発行事業者登録番号(インボイスナンバー)」の発行申請が受付を開始します。
そこで、この段階で、皆さんにも改めてこの制度のことを理解していただくために、複数回に渡る解説を掲載することとしました。

 

ここまでは2回に分けて、「適格請求書方式」をご理解いただく前提として、消費税がどういう税金で、どのように課税され、納付されているのかということの基礎を、簡単に書いてきました。

 

第3回である今回は、いよいよ日本版インボイス制度とはどのようなものなのか、その具体的な内容を説明し、このテーマの最終回とさせていただきます。必要だと思うことをなるべく分かりやすく書かせていただいていたら、いつもよりも少し長くなってしまいましたが、最後までお読みいただければ幸いです。

 

<1> 適格請求書への切替

令和元年10月に行われた軽減税率制度の導入は、平成元年から続いてきた消費税の体系を著しく変動させる、非常に大きな改正でした。
これまでにも消費税は導入時の3%から5%、そして8%と税率を上げる改正を繰り返してきましたが、令和元年10月の改正は、それ等とは本質的に大きく異なるものでした。
消費税という税目の性質そのものを大きく変化させたと言っても、過言ではありません。

 

その決定的な要因が、軽減税率の導入です。

 

令和元年9月30日までは、税率の違いはあれども、消費税の税率は常に1種類だけでした。
つまり、何を買ったのであっても、同じ金額の品物(サービス)であれば、そこに課せられる消費税は同額だったのです。
しかし、皆さんご存じの通り、令和元年10月の改正により、食品表示法に規定される食品(食品衛生法に規定する「添加物」を含む)と定期購読される新聞(週に2回以上発行されるものに限る)については、一般税率(10%)ではなく、軽減税率(8%)の消費税が適用されるようになりました。
同じ期間に、異なる2種類の税率が併用されるようになったのです。

 

税率が1種類しかない状態であれば、事業者物品やサービスの仕入を行った際に、対価の支払総額が分かれば、そこにどれくらいの消費税が含まれていて、本体価格がいくらなのかということは簡単に逆算することができました。
しかし、2種類の税率が混在している現在は、例えば100,000円を支払って複数種類の物品を購入したとして、その支払額だけでは、いくらの消費税が含まれているのかを判別することはできません。
つまり、最低でも領収証や請求書には、100,000のうち、10%の税率が適用されるのがいくらで、8%の税率が適用されるのはいくらかという区分が記されている必要がありますし、その数字が正しいか間違っているかを確認する為には、取引内容の内訳表示もなければなりません

 

そこで、税法はその規定により、従来よりも詳細な請求書等の発行と保存を求めるようになりました。

 

それが、「適格請求書」です。

 

国税庁の作成したパンフレットの説明によれば、「適格請求書」とは、「売手が、買手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段」として、一定の事項が記載された請求書や納品書等のことをいいます。
なおこの時、その書類の名称(請求書、納品書、領収書、レシートその他)は問われません。

 

ポイントになるのは、軽減税率導入前に使われていたものに比べると、「取引内容」と「取引金額」の記述が、より詳細になるということ。
具体的には、軽減税率の対象品目が取引に含まれている場合には、その旨を取引内容に記載しなければなりませんし、税率ごとに対価の額を合計し、その適用税率を記載する必要もあります。


例えば請求書を例に考えてみても、これを満たすには、新たな書式を作成し、システムをその新書式に対応させていかなければならないことを理解していただけると思います。

 

その為、「適格請求書方式」(日本版インボイス制度)の実施には、軽減税率が導入された令和元年10月から5年の移行期間が設定されました。
時間の余裕を納税者に与えるから、その間に対応を済ませてほしい、ということですね。

ここで、一例として、簡単な「適格請求書」の書式を貼ってみましょう。

 

f:id:miyauchikaikei:20210802222659j:plain

適格請求書の一例

既にこれと同じようなレシート、請求書等を発行している事業者様も多いので、見覚えがある人も結構な人数いらっしゃるのではないでしょうか。

 

ところで、この「適格請求書方式」には、それまでの消費税の計算構造を大きく変えることがもう1つ存在します。それが、この例では右下に掲載されている「適格請求書発行事業者登録番号(インボイスナンバー)」です。

 

<2> 適格請求書発行事業者登録番号(インボイスナンバー)

第1回でご説明したように、消費税の納付額は、事業者が預かった消費税から預けた消費税を差し引いて算出されます。


また、前回の第2回で、消費税法は小規模の事業者について免税事業者という制度を規定しているということをご説明しました。

免税事業者は消費税の納税義務がありませんので、自らが商品の売却やサービスの提供を行う際に、その対価の額に消費税を上乗せし、それを相手先から預かる必要はありません。


この前提に立てば、消費税の課税事業者が免税事業者から物品等を購入する場合には、その支払額には消費税は含まれていないことになります。
それは預ける消費税が存在しないということであり、すなわち、預かった消費税から差し引けるものが、免税事業者からの購入取引では生じないということを意味しています。
つまり、会計処理を行うにあたって、免税事業者から購入した物品やサービスについては、消費税の課税対象外の取引として記帳をするのが、正しい処理方法ということです。

 

一方で、仕入先が免税事業者か課税事業者かを確認する方法が、これまでは、ほぼ存在していないとうのが実情でした。
いちいち全ての取引先(例えば出先で昼食用のパン等を買いにふと立ち寄った個人経営の商店なども含みます)に課税事業者か免税事業者かを確認して回るというのは、現実的ではありませんし、相手がそれに答えてくれるとも限りません。

 

そこで実務上、課税事業者が仕入れた(消費税の課税対象となる)商品やサービスについては、全て消費税が課せられているものとして処理を行うのが通常の処理となっています。
本来的には誤った処理ですが、この場合は止むを得ないというわけです。

 

しかし、「適格請求書発行事業者登録番号(インボイスナンバー)」の導入は、この状況を全く変えることになります。
これは、所轄の税務署に対し申請を行った消費税の課税事業者に対して発行される番号で、「適格請求書等」にはこの番号を記載することとされています(免税事業者は「適格請求書発行事業者登録番号(インボイスナンバー)」を取得することはできません)。
つまり、受け取った請求書等に「適格請求書発行事業者登録番号(インボイスナンバー)」があるかどうかで、その事業者が課税事業者なのか免税事業者なのかの判定を行うことができるのです。

 

<3> 適格請求書等導入後の仕入税額控除

課税事業者が請求書等に「適格請求書発行事業者登録番号(インボイスナンバー)」を記載する制度が導入されることで、発行を受けた請求書等から相手が課税事業者と免税事業者とを明確に区分できるようになるということは、逆に言えば、受け取った請求書等に「適格請求書発行事業者登録番号(インボイスナンバー)」があるか無いかで、その仕入を消費税の控除対象(=預けた消費税として差し引くことができるかどうか)にできるかを判断するということを意味します。

 

ここで一点注意しておいていただきたいのは、「適格請求書発行事業者登録番号(インボイスナンバー)」の発行は課税事業者でなければ受けることができませんが、その発行を受けることは課税事業者の義務ではないということです。


つまり、課税事業者であっても「適格請求書発行事業者登録番号(インボイスナンバー)」を取得しないで済ませるということも理論上は可能なのです。
ただし、そうすることに対するメリットは、これからご説明するようにほとんど存在しないですから、実際にその道を選択される事業者はほぼいらっしゃらないでしょうけれど。

 

課税事業者にとっては、消費税の仕入税額控除ができるかできないかは、納税負担の大小に直接影響を与える非常に重要な問題です。
仮に消費税の仕入税額控除ができなかった場合、その事業者が納付しなければならない消費税の額は、控除できなかった消費税の金額分だけ、そのまま増えることになります。

 

例えば、課税事業者であるA社がB社から税抜10,000,000円の商品を仕入れて、C社に税抜20,000,000円で販売したものとしましょう。

B社の請求書に「適格請求書発行事業者登録番号(インボイスナンバー)」の記載があれば、A社はC社から預かった消費税(売価の10%である2,000,000円)から、自身がB社に預けた消費税(仕入額の10%である1,000,000円)を差し引いて、その残額である1,000,000円を国税に納付することになります。
しかし、B社が免税事業者であってその請求書に「適格請求書発行事業者登録番号(インボイスナンバー)」の記載が無く、対価にも消費税が上乗せされていなければ、A社はB社に消費税を預けることもないわけですから、預かった消費税から差し引くことができる金額は存在しません。つまり、A社はC社から預かった2,000,000円をそのまま国税に納付しなければならないのです。
この時、法人税の課税対象となる利益の額は、どちらも10,000,000円で変わりませんので、法人税等の額に変化はありません。

 

一方、まずあり得ない形だとは思いますが、B社が課税事業者でありながら「適格請求書発行事業者登録番号(インボイスナンバー)」の取得をしていなかった場合には、利益の額は9,000,000円となり、消費税納付額の増加額と同額だけ減額されます。
しかし、法人税等についても、少なくなった利益と同額だけ減少するわけではありません。
法人税等の税率を仮に30%であるとすれば、利益が1,000,000円の時の納税額は300,000円であるのに対し、2,000,000円の時の納税額は600,000円です。

 

消費税と合計すると、B社が「適格請求書発行事業者登録番号(インボイスナンバー)」を取得している場合の納税額は1,600,000円、取得していない場合は2,300,000円となります。
差額は700,000円まで圧縮されましたが、依然として後者の方が圧倒的に納付額が多いことが、ご理解いただけると思います。

 

この「適格請求書発行事業者登録番号(インボイスナンバー)」の導入は納税者にとって、自身の購入・利用した物品やサービスが通常税率の適用されるものなのか軽減税率の適用されるものなのかを把握し、あるいは請求書記載の消費税率が万が一にも間違っていないかを確認することも可能になるということから、複数税率が同時に存在するようになった現在の消費税制下で、誤りのない適切な申告と納税が行えるようになるというメリットがあります。


一方で、課税当局側にすれば、免税事業者からの仕入も消費税の税額控除に使われていたこれまでの状況を是正し、正しい消費税額が納税されるようになる、つまりは税収が上がることを期待できる制度であり、財務省が当初はしぶっていた軽減税率の導入を許容したのは、実はそれに合わせて「適格請求書等保存方式(日本版インボイス制度)」も導入することができるからであり、本命はむしろ後者にあったということが言われています。

 

上記のように、課税事業者にとっては、「適格請求書発行事業者登録番号(インボイスナンバー)」の発行を受けている取引先から物品やサービスを購入することが、納税額をなるべく抑える観点からも絶対的に有利です。
その結果、同じ物品やサービスを取り扱っている課税事業者の取引先と免税事業者の取引先が存在した場合に、これからは前者にのみ発注が行われ、後者との取引が消滅する可能性があります。


これは、その取引先にとってみれば、たまったものではない話ですよね。

 

ですので、今後は、現在免税事業者である事業者も、敢えて課税事業者になって「適格請求書発行事業者登録番号(インボイスナンバー)」の申請をする必要が出てくるかもしれません。
あるいは、取引先の方から、所轄の税務署に「課税事業者選択届出書」を出して「適格請求書発行事業者」になるよう要請される可能性も、あるいは、あり得ると思われます。

 

現在の取引先との関係、取扱商品(サービス)がどのようなものなのか、代替となり得る競合他社の有無など、様々な要素を今の段階から総合的に考慮して、自社はどうするべきか、令和5年10月の「適格請求書等保存方式(日本版インボイス制度)」の本格導入に備えるべきだと言えるでしょう。

とはいえ、実際に、免税事業者であることから取引を打ち切られるという事態が頻繁に発生することになるかということは、現時点では分かりません。

個人的な感触で言わせていただくと、実際には、一部メディアが煽っている程には酷いことにはならないという可能性も高いとも思っています。

 

いずれにしても、この辺りは、実際の運用が始まってから注視し続けなければいけないでしょう。

実際に、不当な不利益を被る事業者が出た時には、それは是正されなければなりませんし。